いいでしょ?僕の人生

“編集不在”メディアとライター業界の矛盾


img_2003

仕事を通じて、いろんなライターの方々に出会います。ナレッジ・リンクスでは複数のライターとパートナー関係を持って業務に当たっていますし、メディアの編集者としてライターとやり取りすることも。今更感がありますが、ライターの実情はあまり良いものとは言えません。ライターを名乗る人は山ほどいるのに、「ライターが探せない」という相談が絶えないという矛盾。先日は、こんな相談を某社から受けました。

「メディアで執筆実績がある方に限定し、実際の掲載文も確認して依頼した。それなのに、同じ人が書いたとは思えないほど酷いクオリティで愕然としてしまい、修正を頼んでもそれは変わらない。このままでは使えないので、全ての原稿を編集してほしい。」

ライターにとって、“見せられる実績を持つ”ことは1つの目指すべき課題となっているようです。確かにSEO対策など量産系の記事では、『その記事がどこで掲載されているのか』すら分からないこともしばしば。また、著作権云々で自身の実績として公開できないという縛りも少なくありません。しかし

「この記事を書きました!」

と見せられるものがあれば、自身がちゃんと経験・実績を持つライターだと認めてもらえるというわけです。そこで飛びつくのが、署名を併記できるメディアでの執筆。しかしここに、この残念な現状を生み出す落とし穴があるようです。今回は自戒の念も込めつつ、この辺りを自分なりに考察していきます。

◼乱立する編集不在のメディア

現在、私自身もいくつかのメディアで原稿を執筆しています。主にスポーツ系ですが、以前はITやビジネス、働き方系でも執筆していました。しかしメディアといっても、その体制は実に多様です。今はコンテンツマーケティング等を背景に数え切れないほどメディアが増えていますが、特に新しいメディアに見られるのが『編集不在』という実態。ここに、冒頭で挙げたような矛盾の生じる大きな要因があるように思えます。

 

『編集不在』と言っても、メディアを運営する企業内に編集者がいないという話ではありません。実際にはそういうメディアもあります…が、少なくとも私の知る限りでは少数です。では、いったい『編集不在』とはどういう状況なのか。簡単に言ってしまえば、ライターにとって編集という存在が、いてもいなくても変わらない状態ということです。

例えば記事を書いて入稿します。…で、ライターの仕事は終わり。あとは勝手に編集者がタイトルや本文に手を加え、いつの間にか公開されます。「ありえん」と思うかもしれませんが、実際に私の執筆先でも起きていること。つまり、ライターと編集者との間でコミュニケーションが欠落しているわけです。

「あ、確かに今書いている媒体ってそうかも」

と思い浮かぶ方、少なくないのでは?

特にこの状態、未経験からライターを受け入れているようなメディアに多く見られます。恐らく、最初から記事にクオリティは求めていないのでしょう。編集して公開するためのもととなる記事をコンスタントに欲しいだけ。コンテンツマーケティングには更新性が求められますから、分からなくはありません。しかしこれで、本当にライターと言えるのでしょうか。

◼成長させない、できない実態

編集されていつの間にか公開された記事にも、しっかり自分の名前やプロフィールが併記されている。どうアレンジされようと“自分の書いた実績”なわけです。中には大幅に手が加えられたものもあるでしょう。しかしこの場合、本当にそれが書き手のスキルを正しく判断できるものかと言われれば、答は「No」です。なぜなら、それは実際にその人が書いた状態ではなく、編集によってクオリティの高められた(高まっていないこともありますが…)ものだから。

では、それを実績として提示された企業は、どう受け止めるでしょうか。恐らく「この人は、このくらいの文章を書けるライターなんだ」と判断するはず。ですから、冒頭で挙げたような相談が起きるわけです。ライターと編集者の関係、依頼する側に立つ方は理解しておきましょう。

「文章クオリティは編集で高められる。」

この考えがあるので、メディア側は未経験者でも歓迎します。そして『書いてもらう→編集する→公開する』という流れをルーティンで回すわけです。ここで考えたいのが、“そこにライターが成長できる過程はあるのか”ということ。

記事を書くと勝手に公開されるから、それを待ちながらまた次の記事を書く。その繰り返しの中には、残念ながら大きな成長が得られません。もちろん記事作成のスピードは向上するでしょう。しかし肝心なクオリティの部分は…

「何がどう編集されて、実際の反響はどうだったのか。」

ざっくり言えば、これが分からないと自分のライティングスキルなんて分かりません。そしてこれを知り、クオリティを高めるために学びと工夫を加えていくからこそ、成長があるのではないでしょうか。せめて記事公開をURLと共に知らせてあげる。そうすれば、それを読むかどうか、読んだうえでどうするかは書き手次第です。私はよくナレッジ・リンクスで、パートナーの方々に「ご自身の書いた内容と比較し、何が異なっているか確認してみてください」と伝えます。

◼プロを名乗るなら、それだけの自己研鑽を

しかしメディア運営側から見れば、これも手間と感じてしまうでしょう。毎日のように入稿される原稿と、同じく毎日のように公開される記事。その1つ1つをフィードバックしていくことは、確かに多くの時間と労力が伴います。ですからここでは、何も『編集不在』なメディアを叩こうというわけではありません。その実態を理解することで、ライター自身に成長を目指してもらいたいと思うわけです。

残念ながら多くの方は「自分の書いた記事が公開されている」ことに満足感を覚え、さもプロレベルのライターであるかのように「私はライターです!」と名乗ってしまいます。以前、未経験ながらメディア側からの意向で一度お仕事をご依頼した方が、翌日にはSNSのプロフィールで『勤務先:ライター』と書いていたのには驚きました。

ちなみに…

少し話が逸れますが、ナレッジ・リンクスでも一部で未経験者をパートナーとして迎え入れることがあります。基本的にライターの場合、最低でも商用ライティングの経験2年以上が原則。もちろん実績については、“実際に書いたもの”で確認しています。

ではどういう場合に未経験でも可能になるのかと言えば、特定の専門性を有する場合です。それこそ前述の通り『文章クオリティは編集で高められる』わけですが、専門性は一朝一夕で身につくものではありません。学びや経験のうえにこそ生み出されるものであり、それ自体に価値があると考えています。

もちろん専門性があって、しっかりライティングスキルまで身についていれば最高。ですからご本人の意志を踏まえつつ、ライターとしてスキルを高めたいという方には、編集後にアドバイスをお送りしたり、先に挙げたように公開先URLをお送りして自学を促しています。実際、そういう方は着実に記事のクオリティが高まっていきますので、こちらからすれば有り難い限りです。

私はライターという仕事を始めて約11年、完全独立して約6年半です。最初の頃は厳しいことも多々ありましたが、お陰さまでさまざまなお仕事をご依頼いただけています。するとつい慢心が生まれ、自己研鑽することを忘れてしまいがちな自分に気づくことが。「これではいけないな…」と思いつつ、今回のブログも自分への戒めとして書いているところです。

プロライター。それはプロを名乗るに相応しい知識・経験・スキルを持つだけでなく、常にプロであり続けられるだけの努力を怠らないからこそ名乗れるものではないでしょうか。自分自身がプロを名乗るに相応しいライターなのか。今一度、自分自身によく問いかけてみる必要があるのかもしれません。