アルバイトやパート、あるいは派遣社員などの場合、給与計算には『時給』を用いることが多いでしょう。しかしフリーランスにおいても、クラウドソーシングや常駐・半常駐型の仕事では同様に時給換算で支払を行うケースが少なくありません。実際、最近やたらとクラウドソーシング経由で時給案件の打診が届きます。
時給型の場合、当然ながら働いた時間に対して規定給与が支払われます。例えば時給1,000円で月100時間働ければ、100,000円が給与として得られるわけです。以後継続して依頼を受けられるか否かは別として、言い方を変えれば仕事の中身は問われません。どんな働きぶり、どれだけの成果が残せたとしても、時間×時給は必ず受け取れます。もしクライアント側が「これくらいは出来るだろう」と見込んだ成果があったとして、それを満たさなくても「予想より成果が悪いから時給下げるね」とはできないのです。そのため、一見すると働く側にとって優しく、また収入予測が立てやすいので、フリーランスでも大きなメリットを感じるかもしれません。
しかし私は、フリーランスに時給案件をオススメしません。むしろプロとして活躍し、より多くの収入を望めばこそ避けるべきだと考えています。もちろんこれは全てのフリーランスというわけではなく、例えばコールセンターのように「どれくらいの仕事が発生するか分からないけど、一定時間そこにいなければいけない(=そこにいて対応することが業務)」仕事や、相談業のように「一定時間サービスを提供し続ける」ことに対し対価を得る仕事は別の話。あるいはリーダー的な立場を担い、会議など頻繁に行われる環境でも事情が変わってくるでしょう(それでも時給ではなく月額などを推しますが)。ただ、結果的に成果物を提供する仕事については、やはり時給は避けるべきだと思うのです。
■会社員の頃は、よく時給で考えていた
私は学生時代からフリーライターとして活動を始めた後、3年弱ほど会社員として働きました。入社当初こそ分からないことばかりで日々を過ごしていましたが、慣れてからは効率を重視する思考に。定時勤務でしたが、やがてフレックス制の企業へ転職し、独立という道を選んでいます。その中で私は、よく自分の収入を時給換算で考えていました。
つまり年収(あるいは月収)をベースに、実働時間から1時間あたりの時給を算出。これが、その際に働いている勤務先から自分に対する評価なのだと考えていたわけです。残業は“みなし”だったこともあり、残業・休日出勤するほど時給は下がります。かと言って、それほどトントン拍子に昇給することはありません。確か時給で考え始めたのは、自分の成果に対する評価に疑問を感じ始めた頃だった気がします。そして、
「会社から評価されないなら、自分で評価(=時給)を上げるしかない」
という考えにたどり着き、効率を重視するようになったのです。つまり、業務効率・速度を高めて、基本定時帰りを自分のスタンダードにしました。給与が変わらないわけですから、働く時間を短くする。定時という決められた時間はありますが、その中でいかに働き、それ以外の時間をいかに自由にするか…は自分次第。転職の際にフレックス制を選んだのも、自分で時間をコントロールできる幅が広いことに魅力を感じたからです。その後、フリーランスで独立したわけですが、今思えばとても自然な流れだった気がします。
■時間が報酬の基準になるということ
成果物に対し報酬が支払われる仕事。ここでは、私が生業としているライターという仕事を例にとってお話していきます。ライターの仕事は文字単価あるいはページ単価等で報酬を算出されることが多いのですが、つまり「原稿を納品したら、それに対して報酬を支払う」というスタイルです。この報酬はクライアントあるいは案件内容によって大きく異なりますが、今回、その辺の事情は割愛します。
しかし最近、時給で報酬を取り決める仕事が増えてきました。クラウドソーシングならオンライン上で作業時間を記録する機能を用いたり、常駐型の委託でも勤務時間を取り決めて働いたり。中には在宅でも、信頼のうえでタイムシートを提出させて時給計算する…なんていうケースさえあります。もちろんクライアント側は「どの程度の時間でどれだけの仕事がこなせるのか」をあらかじめ予測し、それに基づいて時給額を取り決めているのでしょう。もちろんハイスキル人材ならそのスキル分が加味されるはずですが、現状、時給制の仕事は未経験あるいは経験の浅い人でもOKという仕事が多い印象です。
クライアントからすれば予測が大きく外れていない限り、ほぼ決まった予算で人の抱え込みができます。あくまで時間に対し報酬を与えるわけですから、特に常駐なら当初予定していた仕事で時間に余裕ができれば他の仕事を依頼することも可能。そして作業効率の高い人材が確保できれば、予測を上回るスピードで仕事が完了して少ない予算で済みます。時給制ですから、仕事がなくなれば「これで終わりです」と告げるだけ。それ以上のコストは発生しません。ライター側にとっても、自分のスキルや作業効率に関わらず“仕事がある限り一定報酬が得られる”ため、安定的な印象があるのでしょう。
しかし作業効率が高い人、あるいは効率的に仕事を進めたい人ほど、時給案件はオススメしません。特にプロとして活躍を目指すなら、一時的だとしても良い選択とは言えないと思います。なぜならクオリティを落とさないことを前提として(むしろ経験の中で磨き上げていく)、効率的かつスピーディーに仕事をこなせることも、ライターにとって強みであり価値だからです。
時給制の中では、どれだけ多く仕事をこなしても報酬は変わりません。また、例えば予め与えられた仕事を予定より早く終えたとして、残りの時間は別の仕事が追加されるでしょう。もしくは早く帰った場合、その分だけ報酬は減ってしまいます。それに対し、同じ時間でもあなたより少ない仕事量の人がいても、報酬は変わりません。むしろ「早く終わったから」と切り上げて変えれば、あるいは同じ仕事を遅い時間で終えた人の方が報酬は高い…という理不尽が起きてしまいます。
■成果報酬×時給換算で考えてみよう
かといって「早く仕事しても無駄」という考えを持ってしまうのも避けたいところ。実力以下の力で緩く働けば、確かに楽かもしれません。同じ報酬の中なら、特に「どうせ報酬は変わらないのだから必要なことだけやろう」というのも分かります。しかし残念ながら、そこに成長はないでしょう。成長が止まれば、フリーランスとして生き抜くことは厳しいはずです。
ですから私は、成果報酬制をオススメします。つまり納品物について、都度それに対する報酬を得るのです。そのうえで、私の会社員のように時給換算で考えてみてください。1本5,000円のライティング案件があったとして、1時間かかったら時給は5,000円。これを30分で終えられれば、時給1万円ということになります。仕事を効率的に早くこなせることも、フリーランスにとっては大切なスキルの1つ。そのスキルを磨くことで、自ら時給を上げられるのです。そこには、クライアント側から与えられた時間の縛りなどありません。
報酬という面では、もちろん「より単価の高い仕事を獲得する」ことも1つの方法です。しかしここに効率性をプラスすれば、さらに多くの報酬を得られます。
もちろん、お金が全てではありません。逆に私のように「報酬より時間がほしい」というタイプなら、必要な報酬をより短い時間で確保し、残った時間を趣味や勉強、子育てなどに割けば良いでしょう。フリーランスは時間の使い方も自由なのですから。私は時間に余裕ができると、子どもと出かけたり走りに行ったりしています。時間とお金、自分なりのバランスが取りやすい働き方がフリーランスなのではないでしょうか。その一方を縛る働き方は、やはりオススメできないというのが私の考えです。
■焦らず着実なスキルアップを
ただし未経験スタートなどの場合、最初はなかなか厳しいでしょう。そもそも単価が低ければ、いくら効率的に進められても多くの報酬は得られません。かと言って、報酬の高い仕事は、それだけ経験やスキル、あるいは専門性が求められるはず。さらに単価が低いからと効率にばかり目がいくと、クオリティが疎かになってクライアントからの評価を下げかねません。早く仕事を終えたいがために、仕事そのものが雑になる…これでは本末転倒です。
仕事のスキルアップに近道はありません。ときに背伸びすることがあるかもしれませんが、自らの実力を踏まえて実直に取り組むこと。しかし、ただ仕事を作業のようにこなしているだけでは、大きなスキルアップは目指せないでしょう。本を買う、講座に参加するなどスキルアップに向けた取り組みも、場合によって必要かもしれません。いずれも出費が伴いますが、人生全体で見れば、それを十分に上回るだけの収入にも繋がるはず。問題は、自分がどれだけ高い意識を持って取り組み、工夫を重ねながら学びを実力へと昇華できるかだと思います。
もちろん、時給制が絶対に悪いとは言いません。あくまで個人的な考えから、プロを目指すなら避けた方が良い気がしているという話です。フリーランスとしてどんな働き方を実現させ、どう成長していきたいのか。自分自身に合った働き方を探していってください。