私が初めてライターの仕事を始めたのは11年前(大学3年生)のこと。当時はまだ紙媒体が強く、インターネット関連の仕事などほとんどありませんでした。それが現在は『WEBライター』なんて呼ばれる仕事が主流ともいえる状況になり、その環境は大きく変わっています。
ちょっと今さら当たり前感のある内容も含みますが、今回はその辺について感じることをざっくり語ってみようと思います。もちろん賛否両論ありますし、あくまで個人的見解であることを前提に…しかしこれからライターを志す方にとっては、何かしら得るものがあるのではと思います。
■仕事当たりに得られる報酬
書籍などの紙媒体とは異なり、WEB媒体の多くはそれ自体が利益を生むものではありません。本や雑誌はその場でお金を払い“購入”されるのに対し、WEBコンテンツは無料がほとんど。例えば有料サービスの利用者向けなどを除き、会員限定を謳うものでも登録は無料という場合が多いでしょう。あくまでコンテンツは集客が目的であり、利益を生むのはアフィリエイトといった広告収入など。あるいはその集客実績をもとに獲得した、有料の広告記事などによって利益が生み出されていきます。中にはコンテンツをブランディングの一部と位置づけ、それに関連する自社商品・サービスの購入へ促すという手法も考えられるでしょう。
いずれにしても、“記事そのものを買ってもらう”わけではありません。そのためWEB媒体は紙媒体と比べて、どうしてもライターに支払える報酬が低くなってしまいます。書籍も売れるかどうかは出版してみなければ分かりませんが、ある程度の販売予測はつくでしょう。企画を練る段階でそれを予測し、コストを掛けてもペイできると思われるもののみ、ライターなどに依頼を行うのです。
しかしWEB媒体は、いくらそれを読む人がいても収益に繋がるかは次の段階。予測が立てにくく、さらに収益を生むまでには大きく次のようなステップが必要となります。
- 多くの人に読まれる
- 読んだ人が収益源(広告、商品 など)に興味を持つ
- 興味を持ったものに対しアクションを起こす
いわばWEB媒体にいてライターへの発注は先行投資という意味合いが強く、リスクがある(読まれない可能性がある)ゆえに多くの予算が捻出できません。そのためライター業界では、大きな『低単価化』が今もなお問題視されているのです。
もちろん書籍1冊を書き上げるのと、WEB媒体で1記事書くのとでは要する時間が異なります。しかし同じ報酬額を得ようと考えれば、圧倒的に“書く量”はWEB媒体の方が多く鳴るという状況。つまり同じ仕事料にする報酬は減ってしまいました。
「じゃあ、紙媒体だけに絞って仕事すれば良いじゃない」
と思われるかもしれません。しかし多くの方がご存じの通り、現在、本は“なかなか売れない”状況に悩まされています。販売数が伸び悩めば当然ながら売上(予測を含む)も低くなり、それだけ制作段階で割ける予算も低下。同じ媒体であっても、以前に比べて報酬が減った(減らさざるを得なくなった)というケースは非常に多いのです。
具体的にどの程度の報酬になっているのかは、次の話題と重なる部分があるので後述します。
■なんちゃってライターの急増
一部の方にとっては、ちょっと「イラッ」とする内容かもしれません。気分を害された方がいらっしゃったら申し訳なく思いますが、あくまで個人ブログですのでご容赦ください。
インターネットの普及に伴い、WEB界隈でのライターニーズは高まりました。いや、ここはライターというより『文章を書いてくれる人』と表現するのが適切でしょうか。ちょうどクラウドソーシングサービスが脚光を浴び始めた頃ですが、求人サイト等を含め、そこには次のような文言が多く添えられていました。
- 未経験者歓迎
- 主婦や学生歓迎
- 簡単作業
- 空いた時間で収入ゲット
- ゼロからでもスタートできる など
曲がりなりにもプロとしてライター活動を行ってきた身としては、少々困惑しました。この表現は『ライター』という言葉こそ使っていますが、つまりは『誰でも良いから文章書いて』と捉えられるでしょう。実際、その報酬は驚くほど低いもの。WEB媒体では1文字当たりで報酬提示する場合が多いのですが、例えば1文字1円を切るのは当たり前。むしろ1文字1円を上回ろうものなら、“高収入”とまで謳われるほどです。
人によって書くスピードは異なりますから、これが時給・月給に換算していくらになるかは言及しません。ただライターを名乗る身として、「そりゃあないでしょ」と呆れるレベルであることは確かです。在宅で働けるため子育て中など環境によってはメリットも大きいですが、それこそ不慣れな未経験者の方なら、最低賃金にも届かないケースがあるのではないでしょうか。
余談ですが、ただ「何分で何文字書けるか」を報酬の検討基準とするのは危険です。ライティングという仕事には素材集め(情報リサーチ)や構成練り、納品前のチェックはもちろん、納品後にも修正を伴うことがあります。特にこの“修正”は曲者。期待値の高いクライアントの場合、修正が繰り返されてエンドレス化、中には最終的に「求めるレベルに至らない」などで報酬が支払われないようなトラブルも起きています。
<低単価化の及ぼす影響>
では、なぜそのような募集が増えたのか。前述したようにWEB媒体はそれ自体が利益を生まないという構造はありますが、大きな要因はSEO対策を目的としたブログやサテライト記事が挙げられるでしょう。これらはいわば質より量を重視するもので、ほとんど人に読まれることはありません(これを『量産記事』などを呼びます)。私は専門家ではないので言及しませんが、
「とりあえず文章になっていて、指定したキーワードが含まれていれば良い」
といったところでしょうか。しかしとにかく多くの量が必要なので、必要数を賄うにはプロライターだとコストが膨大になります。そこで未経験者をターゲットとして、低単価で書き手を募集したわけです。これはこれでニーズがあるわけですし、書く側にとっても「自宅にいて少なからず収入になる」という点がメリットに感じる方もいますから、批判はしません。しかしこれが、プロライターにまで影響を及ぼします。
WEB媒体においても、すべて未経験者で良いというわけではありません。読み手を前提としたコンテンツならば、当然ながら文章として質が求められます。稚拙な文章、あるいは誰でも書けるような薄っぺらい内容なら、誰も読みたいとは思いませんから。しかし前述のような低単価案件が膨大に世の中で募集された(今でも…)ことから、
「ライターってこのくらいで仕事してくれるんだよね」
という相場観が崩れました。実際、募集サイトの掲載やクラウドソーシングサービスからのスカウトメッセージでも、プロに依頼したいと言いながら「これは無理でしょ」という残念なものが大半を占めています。では、そういう仕事は誰がやることになるのか。これは仮説に過ぎませんが、恐らく低単価案件を数多くこなしてきた“なんちゃって”ライターな方々が、「経験2年です!」などと言って獲得しているのではないでしょうか。
しかしその結果、先に述べたように「求めるレベルに至らない」として修正が多発したり、最終的には別でプロライターを再手配する必要性が生じたりという事態が起きます。私はフリーライターとしてだけでなく法人でも複数ライターとパートナーシップを持つ形でコンテンツ制作に取り組んでいますが、
「フリーランスに依頼したら痛い目を見た」
「経験とスキルが合っていなく質を担保できない」
「ライターは大勢いるが本当にスキルの高いライターを見つけられない」
などの相談が少なくありません。
<経験とスキルが一致しない理由>
ここで着目したいのは、経験がスキルに繋がっていないという状況。最初は初心者であっても、いくらか期間を経て“書く”という仕事をこなすことで、その人は胸を張り「ライターです」と名乗るでしょう。しかし蓋を開ければスキルが伴っていない…これでは“なんちゃって”の状態ではないでしょうか。誤解しないで頂きたいのは、本人の取り組み方によって、同じ仕事でもプロと呼べるだけのスキルにしっかり繋げている人が少なからずいるということ。だからこそ、そこには明確な要因があると考えています。
経験してもスキルが身についていない。もちろん書くことに慣れたり、それによってスピードアップしたりという成長はあるでしょう。足りないのは、自分の書いた文章を見直す機会ではないでしょうか。それは、ただ自分で読み返してみるという意味ではありません。他者が読んだとき、その文章をどう感じるのか。
- 読みやすいのか?
- 伝えたいことが的確に理解できているのか?
- 興味を持って読み進められるのか?
など。もちろん内容に誤った部分がないかなどを含め、評価は自分に足りないもの(=成長ポイント)を知るキッカケになるでしょう。しかし単価の低い案件の多くは、“書いて終わり”の状況です。特に量産記事の場合、そもそも読まれることを意識していないので、依頼側にとっても読み手をあまり意識する必要がありません。さらに言ってしまえば、例えば編集者のように文章クオリティを判断できる人材を抱えている企業は圧倒的に少なく、そもそもフィードバックできる環境ですらないことがほとんどです。
何も言われなければ、「これで良いんだ」と感じ見直すことはないでしょう。まして「次もお願いします」と依頼を受ければ、評価されていると感じてもおかしくありません。しかし実際のところ、そこに大きな成長は見込めません。
(ちなみに最近、メディアなどでもライターとあまりコミュニケーションを取らないケースが増えています。どちらかと言うと依頼側の話なのでここでは深く触れません…が、これも危険なのでご注意を。)
ライターという仕事は名称独占でもなければ、資格独占でもない仕事。だからこうした状況が起きるのかもしれません。最近はライティングについても資格が生まれているようですが、正直に言って判断材料としては弱いと感じます。
■依頼する側のリテラシー
フリーライターへの依頼は、つまり雇用ではなく委託契約ということになります。さらにWEB媒体では量産記事に限らず、更新性も大切なためある程度の記事数が必要となるでしょう。1人のライターで対応し切れないことも多く、同じ企業から複数名のライターへ依頼が行われるケースは珍しくありません。ここで重要になってくるのが、ディレクションです。
現在、特に多くのライター募集(なんちゃって含む)を行っているのは次のような企業。ちなみに、私が経営しているのは3に属する会社です。
- WEB制作会社
- WEBマーケティング会社
- コンテンツ制作会社
中には直接エンドクライアントから依頼となることもありますが、数で言えば上記が圧倒的でしょう。問題となるのは、これら企業の中にライターや編集職の経験者がいるのか否かということ。実際のところ、「いない」と答える企業が多いでしょう。それでもフリーライターに仕事を依頼するうえでは、窓口となる担当者が必要です。そのため、WEBディレクターや営業など、さまざまな職種の人がその役割を担います。すると、どのようなことが起きるのでしょうか。
<ヒアリングが不足している>
まず経験から言わせてもらうと、圧倒的にヒアリングが不足しています。つまり仕事の依頼を受けても、対応できるか否かの判断に必要な情報が揃っていないのです。そのため結果的に、こちらから依頼元へ質問を投げかけ、それをそのまま依頼元がエンドクライアントに確認して回答が戻ってくる…という状況が。これは本来なら不要な手間ですし、最近はその時点でお断りするようにしています。
ただしこれは、あくまで『安心して対応できるかどうか』という話。未経験、あるいは要件の複雑な仕事に対応したことのない方であれば、なんとなく「やります!」なんて即答してしまうから大変です。中には、単価が高くて飛びついてしまうなんていうこともあるでしょう。単価が高いということは、その裏に理由があるというのに…
このように即答する方は、恐らくあれこれ不明点を確認するようなことはしません。なぜなら、本人もまた『何を聞けば良いのか分からない』状態だから。例えば「○○について1000文字でまとめてください」と言われれば、その情報だけをもとにライティングを始めてしまいます。そして納品すると、後になってさまざまな希望要件が挙がってくるかもしれません。
「○○の中でも特に△△について触れてほしい」
「見出しを付けて3〜4個に文章を分けてほしい」
「ですます調ではなく、だである調で書いてほしい」
「参考にしたソース元のURLを文末に記載してほしい」
などなど…。場合によっては、書き直しレベルの大幅な修正になることもあるでしょう。これを回避するには事前に要件を詰めておくなどをはじめ回避策がいくつかあるのですが、依頼元と書き手がお互いに“知らない同士”では思い浮かばないのも当然。そして未経験者や“なんちゃって”ライターに依頼するのであれば、その責任の多くはヒアリングの不足している依頼元側にあると私は思います。プロは確かに高い報酬が伴いますが、その違いはライティングスキルだけではないのです。
<エンドクライアントに寄った調整>
前述の通りライターを募集しているのは、その多くがエンドクライアントから依頼を受けた中間に位置する企業です。エンドクライアントとは、つまり依頼元にとってお客様。当然ながら、収入はそのクライアントからの支払いによって発生します。そのため、どうしてもディレクション時にはエンドクライアントに寄りがちです。
例えばスケジュールを組む場合。ライターによって仕事のスピードは異なりますが、それでも限度というものがあります。しかしディレクターは、基本的にクライアントの要望期日をもとにしてスケジュールを組むでしょう。
「○日までに完納なら×日は社内チェックが必要だから、ライターには△日までに…」
という具合いです。もちろんそれは構わないのですが、ときに物凄いタイトスケジュールが突き付けられることも。断れば良い(私は断ります)話ながら、人によってはそうもいかないでしょう。中には自身の判断ミスが原因となることもありますが、徹夜続きでも終わりの見えない“デスマーチ”状態になるライターが少なくありません。
あるいは単価について。先に述べたように相場が崩れている関係もあり、ディレクターも本来の適正価格が掴めずにいることがあります。そのため、いざクライアントから案件を獲得しライターに依頼しようとした段階で、とてもプロライターでは納得できない単価であるというケースが出るのです。もちろんこれに気付き、クライアントに改めて単価交渉をする人もいるでしょう。しかし一度受注した案件について単価交渉するのは、簡単ではありません。私も営業経験がありますから、これはよく分かります。しかしリテラシーが低いと、そもそもその単価が適性だと思い込んでいるため、平然と次のように相談を投げかけてきます。
「プロ限定のため通常より高く単価を設定しています」
「相場から考えると非常に好条件となっています」 など
最近ではクラウドソーシングサービスでも“中の人”がディレクションを担うビジネスサービスが増えていますが、残念ながら同じことが起きています。特にクラウドソーシングサービスではWEBサービスゆえの機能がマイナスに働いているのか、たいして登録プロフィールを読まずに連絡してくる場合も。先日も、わざわざプロフィールに最低単価を記載しているにも関わらず、それを大きく下回る案件の相談が届きました。また、まったく得意分野とは異なる内容の依頼について、「プロフィールを拝見し、是非ともお願いしたく!」なんて勢いの連絡が来ることも。自由に働きたい、それを実践する身としてクラウドソーシングサービスそのものは賛成なのですが、中の人がこういうことをしていては、さすがに信用をなくすのでは…と心配になりました。いっそ中に入らせてもらい、ディレクター育成に力を貸したいくらいです(私ごとき「いらん」と言われるでしょうけど)。
■最後に
例えば年収400〜500万円程度であれば、真剣に取り組めばすぐに実現できる環境です。これは地方在住でオンラインのみの仕事…というのでも可能ではないでしょうか。未経験からでも“スキルアップ”を意識して働くことができれば、現実的な数字だと思います。ただしフリーライターはここから費用が引かれていきます(税金、経費など)ので、会社員からの転身では特に注意してください。とっても痛い目を見ます。
とはいえ、例えば結婚して子を持つ身であれば、これではあまりに少ないでしょう。世帯として主収入があれば十分ですが、年収500万円ストップでは、子どもの学費や老後資金などなど考えて心もとありません。となれば、さらに収入を得るための“何か”が必要です。ここでは具体的に触れませんが、大切なことは変化に順応し、その中で最大限に自らの価値を高めていくことではないでしょうか。私もまたその点について四苦八苦している身ですが、課題の多い業界だからこそ可能性もあるのだと考えています。
ライターという仕事を始めて約11年。(なんちゃって含む)ライター急増によってベテランの域かのように扱われることがありますが、まだスタートラインに立ったばかりのヒヨっ子です。これからフリーライターとしていかに活躍していけるのか。私にとっては“走る”フリーライターという活動が1つのポイントになっていますが、それもまた未来など分かりません。日々の変化を捉えながら、全力で取り組んでいきます。