働き方が多様化しつつある昨今、毎週のようにクラウドソーシングに関するニュースが目に入る。私も独立前、まだクラウドソーシングという言葉が一般的ではない頃から利用しているが、だからこそ時代の流れの中で1つの疑問が生まれている。
クラウドソーシングはどこへ向かっているのか?
私もナレッジ・リンクスという会社で、あくまで人の介入する形ではあるが同事業を行っている。また、フリーライターとしてクラウドソーシングを利用した依頼を受けることもあり、何もサービスについて否定的なわけではない。
その前提で、自分なりに感じるクラウドソーシングの価値、あるいは向かっている方向について考えていきたい。ただし、私はフリーライターという職種においてのみユーザーであるので、そこに少々偏りが生まれてしまうことはご勘弁頂きたい。
■プロとして受けたい仕事
私がクラウドソーシングを初めて利用したのは、2010年頃のこと。資金&顧客ゼロで独立した身であったため、いかにして仕事を得るかに奔走していた時期だ。フリーランスの募集サイトなどはいくつか見つけたが、その中で「ちょっと変わった」サービスとしてクラウドソーシングに出会った。
当時のサービス画面をお見せすることなど出来ないが、今と比べればユーザーもクライアントも数は少なかっただろう。しかし最も違う点といえば、募集案件の“数と質”である。もっと言えば、当時はプロフェッショナル向けの案件がもっと多く見られた。これはそういう案件が減ったのかもしれないし、案件全体の数が増えたことにより、隠れて見えなくなってしまっている(探すのも大変)のかもしれない。だからこその“数と質”という表現である。
正直に言ってしまえば、私は当時と比べてクラウドソーシングを利用する頻度が減っている。それは他から直接依頼を受けられるようになった…ということもあるが、「やってみたい」と思える仕事に巡り合えなくなってきたことが大きな要因だ。クラウドソーシングで依頼を受けるものの多くが、実はかなり前に依頼を受け、ずっと取引させて頂いているクライアントである。つまりプロとして仕事をする上において、とても受けられるレベルにない仕事が溢れてしまっている。これで生活しようと思っても、なかなか出来るものではないだろう。
■クライアントの求めるもの
特にライティングについては、この傾向が顕著だろう。多くの方はご存知の通り、非常に安価な案件が増えている。その背景には企業のWeb戦略などがあり、「質より量」を求めるケースが多くなったのだ。SEO対策における“被リンクサイト量産”などが良い例であり、今でこそ少しずつコンテンツの質を重視する企業が増えているものの、そこでは『未経験歓迎』といった案件がずらりと並んでいる。発注者はいろいろな書き方をしているが、実態として時給がいわゆる最低賃金に満たないものなど当たり前だ。
もちろん企業にとって必要なものなのだろうから、悪いことだとは言わない。未経験でも歓迎されるのだから、「空いた時間でなんでも良いから収入を」という人には願ってもない機会だ。
しかし未経験とプロをある意味で同列に見られてしまうこともあり、これはたまったものではない。とはいえ、いくらプロとしてポートフォリオなど公開していても、毎日のように溜め息をつきたくなるような案件のリクエストが届くのも事実。さらに『未経験歓迎』案件で崩壊したライターの単価水準が、ある程度質を求められるものについても影響を与えている。つまりライティングという仕事そのものが全体的に見て低価格化しており、クライアント側から見たプロの単価水準もまたこれにつられて落ちてきてしまっているのだ。
もちろん以前からフリーライターへ発注を行っていた企業であれば、この限りではない。出版社なども諸々の事情で金額こそ低下しているものの、プロライターに対する理解はある。しかしWebについて切りだすと、なかなかそうもいかない。
「初めて仕事を外注する」
というケースも多く、そもそも相場観すら持ち合わせていないこともあるのだ。今回ライティングを中心に取り上げてきたが、デザインや開発をはじめ、他職種についても少なからう同じようなことが言えるのではないだろうか。つまりプロとして活動するフリーランスから見ると、クラウドソーシング上で求められるものと提供できるもの、そしてフリーランス側の求める対価とが合っていないのだ。
■クラウドソーシングは誰向き?
「場所や時間を選ばずに仕事ができる」ということは、主婦層や副業者などにとっても大きなメリットがある。わざわざ会社へ就職しなくても、自宅で家事・育児、あるいは本業の合間を使って収入を得られるのだ。先にライティングの仕事が低単価化しているという話を取り上げたが、これもまたこうした層がクラウドソーシングのユーザーに増えていることが背景として挙げられる。こうした層がどのような仕事に取り組むのかを、個人的な解釈ではあるが3点に絞ってご紹介しておこう。
<未経験歓迎の仕事>
やはり多いのは、未経験歓迎とされる仕事だろう。なにせ経験が必要ないのだから、案件応募のハードルがとても低い。つまり言い換えれば「誰でもできる」仕事だ。対応する人々にとっては、ビジネスというより空き時間での“お小遣い稼ぎ”という意味合いが強いのではないだろうか。具体的な業務を挙げておくのであればデータ入力、そして残念ながら記事作成がある。これらはパソコンさえあれば、作業として取り組むことが誰にでもできるからだ(ただし、質は別問題)。未経験歓迎として募集されるこれら仕事において、クリエイティビティやスキルは求められていない。たまに、未経験者に対して質を求め、問題になっているものもあるが…
<過去の経験を活かせる仕事>
過去に専門性の高い業務経験を持つ人は、その経験を活かした仕事を求める傾向がある。未経験歓迎の仕事と比べれば報酬も高いし、意欲のある人であればプロとして自立していける可能性もあるだろう。デザインや開発、翻訳、コンサルティングなどの多くは、むしろ業務経験がなければ募集要件にすら該当しない。データ入力や記事作成についても、ときに経験必須とする場合もあるようだ。
<チャレンジしてみたい仕事>
以前から「いつかチャレンジしてみたい」と思っていた仕事に、クラウドソーシングを活用して取り組む人もいる。一部で未経験歓迎の案件も該当するものだが、特にコンペ式(=作品を提示してクライアントが選ぶ)の案件ではその間口が広い。例えば、独学で学んだ知識と自らのセンスでロゴデザインを作成し、それが認められる…といった場合もある。制作物のクオリティが高ければ、業務経験は問わないというクライアントもいるのだ。そこから、プロとしての道が拓けていく可能性もあるだろう。チャレンジとして取り組めば、プロより価格を抑えて提案することもできるかもしれない。
このように、主婦・副業者層などにとってクラウドソーシングのメリットは大きい。つまり、これまでなかなか仕事のできなかった人々が、在宅でありながらビジネスに介入できるのだ。その他、駆け出しフリーランスにとっての実績作りや、定年退職後の収入源としても同様にメリットがあるだろう。
■まとめ
結論として、クラウドソーシングは「クライアントが不特定多数の中からニーズに合ったプロフェッショナルと出会う」ものではなく、「コストを抑えながら数多くのワーカーへ業務を外注できる」という方向で成長しているように感じる。ワーカー側で見ればプロというより、主婦や定年退職後の人々など、これまでなかなか働けなかった層がターゲットとして強いのではないか。
特に日本では少子化を背景とした“働き手の確保”などの課題があるため、そういった傾向が強まっているのかもしれない。もちろん全てがこの限りではないが、メディアでの取り上げ方などを見ていても、
「個人に発注することでコスト削減につながる」
「空いた時間で誰でも収入を得られる」
といった内容が多いだろう。実際に、こうした点をアピールポイントとするサービスも出てきている。これはこれで、もちろん大きな価値を持つサービスだ。これまで以上に多くの人々へ業務機会が提供されるし、コスト削減などは企業活動においても重要なポイントである。ワーカーにとっては、少しでも収入不安が解消されるという点だけでも実に嬉しいサービスといえるのではないか。
ただ個人的には、『プロとプロを求める企業が出会える』サービスでもあってほしい。その棲み分けは難しいのかもしれないが、ワーカーの努力はもちろん、クライアントの理解も必要になる。これだけクラウドソーシングが成長しているからこそ、プロがプロとして生きていくための土台になっていければ、さらに価値は上がっていくのではないだろうか。
これから、雇用されない働き方が増えていくと言われている。しかし本当に、「雇用されず十分な生活が送れるのか?」と言われれば、疑問が残るところだ。ただでさえ私の周囲でも、独立して「仕事がない」「収入が足りない」と嘆く人は多い。会社員時代より収入が減り、しかし、だからこそ時間を削って毎日遅くまで仕事している…なんていう例もあり、これではフリーランスという働き方に希望を持てないだろう。
もちろんこれはクラウドソーシングに限定した話ではないのだが、少なくともクラウドソーシングには、その希望を作り出せる可能性があると私は考えている。私自身もまた会社として、そして個人として、個人が自らの価値を最大限に発揮し、イキイキと働ける社会の実現に向けて努めていきたい。