ハーフ地点を越えた段階で、ペースが落ちていくことを予感していました。4:00/kmペースでフルマラソンを走り切る実力は、まだありません。それは身体全体の疲労感が物語っており、次第に脚がまるで地面に張り付いたような重さを感じ始めたのです。
沿道からの応援で、後ろにランナーがいないことが分かりました。前方にも、開けた道ならば遠目にさきほどの集団が見えるものの、かなり距離があります。まさに孤立。自分との戦いです。
前半に比べて、後半はアップダウンが増えてきます。走れないほどではないものの、疲れたからだには十分にこたえる勾配。それに合わせて前傾姿勢を取り、腰から脚を動かして腕を振る。25km以降になると、いよいよ4:00/kmペースは維持できなくなってきました。数秒、また数秒と、じりじりペースが落ちてしまいます。それでも私にできることは、『今できる限りの走りをする』だけ。
しかしこの辺りから、頭の中は常に計算を繰り返すようになっていました。これが本当にいけなかった…。1km進む毎に、残りの距離とタイムから
「1km何分ペースまで落としても大丈夫なのか?」
を考え始めたのです。前半の“攻め”はどこへやら。サブ3達成を意識し過ぎるあまりに、完全に守りの思考に切り替わってしまったのです。もちろん、サブ3達成は成し遂げるべき目標。しかし守りに入ってしまうと、自分に甘えが出てしまいます。それは、ペースにも現れました。
25km→30kmを21分27秒で通過。さらに30km→35kmでは、22分51秒もかかってしまいます。5km毎のラップが、ハーフ地点を超えてから1分半近くも落ちている計算です。さらに上り坂になると、5:00/kmを超えそうになる場面も。
「ここまでなら落ちても大丈夫」
という妥協が、ペースダウンをいつの間にか問題としなくなっていました。なかなか拭えない甘えた思考。しかしこのままペースが落ち続ければ、せっかく前半で作った余裕をすぐに使い果たしてしまいます。
いつの間にか空は晴れ渡り、気温もどんどん上昇していました。どうやら、25度を超えていたようです。汗の量が増えて、その分だけ給水でも時間が掛かってしまいます。ペースダウンをさらに加速させてしまう状況に、
「このままじゃヤバイ」
という危機感が生まれました。しかし残念ながら、一度落としてしまったペースを上げることは非常に困難です。自分への甘さに苛立ち、焦る。
「とにかく、これ以上は落とせない。切り替えよう。」
なんとか気持ちを切らさずにいられたのは、恐らくこれまで取り組んできたトレーニングへの自信。サブ3を目指して必死に走ってきた半年間が、どんどん頭の中に流れ込んできました。
1人で追い込みすぎて吐きそうになったインターバル
仲間と一緒に走った皇居10周LSD
自分にルールとして課した帰宅RUN
学び直すために読み漁ったたくさんの本
最高のコンディションを作るために取り組んだセルフケア など…
トップ選手に比べたら、たいした努力ではないかもしれません。しかし自分なりに目標必達のため取り組んだことが、「できるはずだ」という自信に繋がったのです。そして何より、私にはたくさん応援してくれる仲間や家族がいます。
「次の5km、絶対に24分以内で走らなければ」
ペースを上げることは困難。アップダウン、暑さ、疲労…ペースが落ちてしまうのは、もはや止められませんでした。それならば、少しでも下げ幅を小さく抑えるしかありません。
「一度止まって休憩を入れ、ペースアップを狙った方が良いのではないか」
そんな作戦も浮かびましたが、止まったら動けなくなると判断し却下。自分でも前に進んでいるのが不思議に感じるほど、まさに“気持ち”で走っているような状態だったのだと思います。
35km→40kmは23分55秒。やはりペースは落ちましたが、なんとか1分程度の落ち幅で踏ん張れました。ここまでくれば、残りは2.195kmだけ。決して安心できるタイムではありませんが、サブ3はもう目の前にあります。
ゴールが近づくにつれて、応援が増え始めました。それと同時に、走れなくなったランナーもポツポツと現れます。残り1kmというタイミングで、呼吸が苦しくなります。腰もガタガタで、今にも崩れてしまいそうです。しかし最後の直線、やっと遠くにゴールゲートがうっすらと見えた瞬間…
サングラスを外す
なぜか自然ととった行動でした。すると視界が明るくなり、応援してくださる沿道の方々と目が合います。声が出てしまうほど苦しく、とてもキレイな走りとは言えなかったでしょう。そんな私に、
「頑張れ〜!」
「あと少し!」
「3時間切れるよ!」
などと、一生懸命に声を掛けてくれます。気が付けば、なぜか目から涙が溢れ出ていました。汗を拭うフリをして涙を拭いても、止まることはありません。胸が熱くなり、走っていることを忘れてしまうほど気持ちが高揚していました。
「本当にありがとう」
声にならないその言葉を、何度も心のなかで繰り返しました。辛いトレーニングを乗り越え、自分なりにいろんな工夫をして望んだ福岡マラソン。しかし1人で努力したのではなく、支えてくれた人々がいる。そしてレース中も、こうした多くの人々が背中を押してくれていることに、ただ感謝だけがこみ上げました。


そしてラスト踏ん張っていなければ、恐らくサブ3は達成できていなかったでしょう。気持ちの弱さは、これからの大きな課題です。

サブ3を達成できたのは、自分1人の力ではありません。個人競技のマラソンですが、その裏にはランナーを支える大勢の人々がいます。仲間や家族、そして大会を運営してくださった皆さま全員に、心から感謝しています。
本当にありがとうございました!
これからの目標を聞かれますが、もう少しフルマラソンの記録もこだわってみようかと考えています。本当は、サブ3で記録を狙うのは終わり…と思っていたんですけどね。不思議なもので、今は
「もっとやれるのでは?」
というワクワク感が勝っています。とりあえず、来年はサブ3枠で「別府大分毎日マラソン」を走りたいです。
今週末は「金沢マラソン」。そして、来週末は72時間で400km走る「沖縄本島1周サバイバルラン」が待っています。まずは疲労を抜くことに専念しますが、どれも楽しみなレース。走る喜びを噛み締めながら、これからも走り続けます!